大阪高等裁判所 昭和46年(う)306号 判決 1972年6月22日
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金五、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
原審および当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
<前略>
検察官の控訴趣意の要旨は、原判決は、「被告人は、法定の除外事由がないのに昭和四五年三月二三日から同月二五日までの三日間にわたり、姫路市古二階町三一番地先の道路上の場所を、自動車(六姫路き二四八二)の保管場所として使用したものである。」との公訴事実に対し、「被告人が、公訴事実記載の三日間、午前八時三〇分ごろから午後六時ごろまでの間において、公訴事実記載の場所に同記載の自動車を、他に運行していない間、駐車させていた事実を認めることができる」としながら、「自動車の保管場所の確保等に関する法律(以下本法又は法という)五条一項にいう『道路上の場所を自動車の保管場所として使用』する行為とは、自動車の運行が相当の間予想されない時期に、自動車を道路上の一定の場所に反覆継続して駐車させるような行為をいうものと解するのが相当である」との見解のもとに、本件においては、被告人が自動車の運行が相当時間予想されない時期において自動車を駐車させた事実が認められず、結局本件公訴事実はその犯罪の証明がないことに帰するとして無罪の言渡をした。しかしながら、法五条一項にいう「道路上の場所を自動車の保管場所として使用」するとは、広く「道路上の一定の場所に自動車を反覆継続してこれが使用の根拠地として駐車する」ことをいうものと解すべきで、これを制限して、「自動車の運行が相当の間予想されない期間における」ことを要件とすることは誤りであり、そして本件証拠によると、被告人が公訴事実記載の日時に同記載の道路上の一定の場所に、自動車を反覆継続して、これが使用の根拠地として駐車させていた事実が明らかであるから、本件公訴事実につき犯罪の証明がないとして無罪を言渡した原判決は、法五条一項の解釈適用を誤り、その結果事実を誤認したものというべく、右誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、到底破棄を免れない、というのである。
よつて先ず、法五条一項にいう「道路上の場所を自動車の保管場所として使用(する)」ことの意義について検討する。
思うに刑罰法令を解釈するに当つては、成文を尊重しそれを基礎としてなすべきことは勿論であるが、必ずしも法文の字句にとらわれることなく、当該法律の目的趣旨ならびに当該法律における他の規定等を照らし合せて、その法意とするところを明らかにすることが正しい法解釈の態度というべく、かかる観点に立つて以下論点について考察するに、本法は、近時我が国においては、自動車が急激に増加し、とくに大都市における道路交通量は道路容量を遙かに超え、著しい交通渋滞を招来し、加うるに車庫等保管場所を有しない自動車が多数道路上に放置されて、道路の適正な使用を阻害するとともに、ただでさえ狭い道路を一層狭めて交通の混雑、渋滞を激化させている現況にかんがみ、かかる事態緩和のための一対策として制定されたものであり、本法の目的とするところは、法一条において宣明しているように、「自動車の保有者等に自動車の保管場所を確保し、道路を自動車の保管場所として使用しないよう義務づけるとともに、自動車の駐車に関する規制を強化することにより」、いわゆる公道の私物化を排斥して、道路がその本来の用途である一般交通の用に供せられるよう「道路使用の適正化」を図り、かつまた自動車が長時間道路の同一場所に置かれること等によつて惹起される交通渋滞の可能性を解消して「道路交通の円滑化」を図ることにあり、右の如き本法制定の趣旨および目的に照らし、さらには法二条三号において、「保管場所」を定義して「車庫、空地その他自動車を通常保管するための場所をいう」と規定していることに徴し考えると、法五条一項にいう「道路上の場所を自動車の保管場所として使用」するとは、自動車を運行する根拠地として使用する目的で、道路上の一定の場所を、反覆又は継続して占拠することをいう、ものと解するのが相当である。すなわち、法五条一項が禁止の対象とする「自動車の保管場所としての使用」といいうるためには、その使用の目的が、道路本来の用途である一般交通の場所として或は右用途に必然的に伴う自動車運行中の一時駐車の場所として使用するためではなく、右の用途から離れて、道路上の場所を自動車運行の根拠地、換言すると自動車運行の活動拠点として使用することを目的とすること、ならびにその使用形態が、道路上の一定の場所を反覆又は継続して占拠して使用するものであることを要し、かつ、これをもつて足りるものと解すべきである。そして自動車の保管場所としての道路使用の形態は、通常は自動車を道路上の一定の場所に反覆又は継続して駐め置くことであらうが、必ずしも自動車を駐め置くことを要するものではなく、当該場所に工作物等を設けるなどして、反覆又は継続して当該場所を右に述べた自動車運行の根拠地として使用しうる程度に確保する場合も、自動車の保管場所としての道路使用に当るというべきである。
したがつて、他に車庫を有していても、自動車運行の根拠地として使用する目的でもつて、道路上の一定の場所を反覆又は継続して自動車を駐め置く等して占拠する以上は、法五条一項違反の罪が成立するものというべきである。
原判決は、法五条一項にいう「自動車の保管場所としての道路使用」の要件として、その道路使用が、「自動車の運行が相当の間予想されない時期」におけるものであることを要するとする。しかし原判決が右要件とする点は、具体的事案につき、当該道路使用が「自動車の保管場所としての使用」に該当するか否かを判断するうえにおいて、考慮すれば足りる事項であつて、法五条一項にいう「自動車の保管場所としての道路使用」を原判決のように制限して解釈すべき法文上の根拠はない。むしろそのように解することは、公道の私物化を排除すること等によつて、道路使用の適正化と道路交通の円滑化を図ろうとする本法の趣旨目的を没却するものというべく、原判決の右解釈、見解にはたやすく同調し難い。
ところで原判決は、三つの論拠を挙げて右立論の根拠とする。
その一として、公共駐車設備の不足、車庫、駐車場等のための用地確保の困難等の点を挙げる。なるほど原判決のいうところもあながち無視できないところではあるが、前説示の如き本法制定の趣旨目的に照らし、かつまた本法は、法五条一項および二項の規定の適用地域については、原判決のいうような事情を考慮して、全国一律に適用する方式をとらず、法五条三項、同法施行令三条一項本文により、当該地域の道路交通状勢等にかんがみ、道路交通の円滑化を図る必要性の有無等を勘案して、必要性のある地域を指定する方式をとり、しかも適用地域内の場合でも、法五条三項、同法施行令三条一項但書により、一定の事由ある場合は右適用を除外する旨定めており、右適用地域の指定および本法施行令三条一項但書による適用除外区域の指定が、本法の目的に照らし適正になされているかどうかを格別とすれば、法自体において、適用地域について行き過ぎのないよう十分配慮しているのであつて、原判決のいう点をもつては、前示解釈の論拠とはなしえない。
その二として、法二条三号の「保管場所」の前示定義規定を根拠に、「自動車を使用しない間の格納場所としての性格」をいうが、これは「車庫」なる字句にとらわれた見解というべく、右の定義規定から直ちに「自動車の保管場所としての道路使用」が、自動車の運行が相当の間予想されない時期におけるものであることを要することにはならず、論拠としては薄弱である。
その三として、法五条二項各号および道路交通法の駐車についての規定の趣旨をその論拠とするが、法五条二項各号にいう「駐車」は道路交通法にいう「駐車」を意味するところ(法二条五号)、一般に道路交通法にいわゆる「駐車」なる概念は、自動車の運行中における継続的停止を意味するのであり、したがつて駐車による道路使用は、道路本来の用途に当然付随する使用方法というべきであつて、自動車の保管場所としての道路使用、すなわち自動車運行の根拠地としての使用とは、その性質を異にするものであるから、法五条二項各号において、一定長時間(夜間は八時間、その他は一二時間)の継続的な駐車を禁止しているからといつて、このことの故に、同条一項の「自動車の保管場所としての道路使用」も、それと同じく自動車の運行が相当の間予想されない長時間にわたることを要するものと解するのは相当でない。もつとも同条二項各号は、同条一項のいわゆる「みなす」的規定と解せられるが、それは、同各号に該当する長時間の駐車は、これを実質的にみれば、道路交通法上の一般の駐車とは異り、道路上の同一場所を自動車の臨時保管場所的な状態で使用していることにほかならないからであり、この意味で両者を同一法条で規定したにすぎないものと解せられる。
以上これを要するに、原判決が法五条一項にいう「自動車の保管場所としての道路使用」につき、「自動車の運行が相当の間予想されない時期における」ことを要件としたことは、右条項を不当に制限解釈したものであつて、その解釈適用を誤つたものといわざるをえない。
そこで進んで本件の事実関係についてみるに、原審および当審で取調べた証拠によると、被告人が、公訴事実記載の昭和四五年三月二三日から同月二五日までの連続した三日間にわたり、各日の午前八時三〇分ごろから午前六時ごろまでの間において、軽四輪貨物自動車(六姫路き二四八二)を、他に運行していない間(各一日につき、通じて五時間以上)、公訴事実記載の道路上の場所に駐め置いた事実は、優に認めうるところであつて、被告人が、公訴事実記載の日時に同記載の道路上の場所を、同所に自動車を反覆継続して駐め置いて、占拠使用した事実は明白である。そしてさらに、原審および当審で取調べた各証拠を綜合すると、被告人は、本件当時は勿論、従来から姫路米穀株式会社に雇われ、姫路市古二階町三一番地に所在する同会社の古二階町販売所に同所責任者として勤務し、精米作業ならびに米穀その他の商品配達の業務に従事していたものであるが、会社から業務遂行等のため自動車を与えられ、右自動車は被告人において専属的に運行し、出勤ならびに米穀等商品配達業務の用に供していた事実、そして、被告人は、右販売所の営業時間(概ね午前八時三〇分ごろから午後六時ごろまで)外の夜間又は休日には、右自動車を自宅である兵庫県神崎郡香寺町岩部四二四番地の一の敷地内の空地に保管していたが、毎出勤日には、右自動車で自宅から約一一キロメートル離れた前記販売所に午前八時三〇分ごろ出勤し、自動車は販売所店舗前の公訴事実記載の道路上の場所に駐め置いて、営業終了時刻の午後六時ごろまでの間、米穀等の配達のため、自己の業務遂行の場である右販売所の店舗前道路上の場所を拠点として、一日平均して七回位自動車を運行し、運行しない間は常に右店舗前路上に自動車を駐め置いていた事実、本件の場合もこれと全く同様であつて、被告人は、公訴事実記載の三日間連続して、営業時間の午前八時三〇分ごろから午後六時ごろまでの間において、前記店舗前の道路上の場所に自動車を駐め置いて、同所を拠点として、米穀等商品配達の業務遂行のため数回にわたつて自動車を運行していた事実、その他、前記販売所前の道路は、商店街の西方の一方通行と規制されている道路であるが、駐車禁止の規制がなされていないことから、右道路上には常に多数の車両が駐車し、それがため、本件当時いまだ付近に車庫等自動車の保管場所を確保していなかつた被告人としては、自己が円滑に自動車で配達業務を遂行するには、自動車発着等の場所として前記路上の場所を確保して使用せざるをえない事情にあつた事実(現に被告人自身も、その昭和四六年八月九日付上申書で、店舗前路上に自動車を駐車しておかないと、すぐ外来者が店頭に自動車を駐車させて、自己が駐車させる場所がなくなり、営業が妨害される趣旨のことを述べている)が、認められるのであり、これらの事実に徴すると、被告人の前示道路使用が、自動車を運行する根拠地として使用する目的に出たものであることもまた、明らかなところである。したがつて、本件公訴事実にいうところの、被告人が道路上の場所を自動車の保管場所として使用した事実は、これを認めるに十分であるといわなければならない。
されば原判決が本件公訴事実につきその犯罪の証明がないとして、これを無罪としたのは、法五条一項の解釈適用を誤り、その結果事実を誤認したものというべく、右誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は到底破棄を免れず、検察官の論旨は理由がある。
よつて刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条、三八二条により原判決を破棄し、原審および当審において取調べた証拠によつて直ちに判決することができるものと認められるので、同法四〇〇条但書により、さらに判決する。
(罪となるべき事実)
被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和四五年三月二三日から同月二五日までの三日間にわたり、姫路市古二階町三一番地先の道路上の場所を、軽四輪貨物自動車(六姫路き二四八二)の保管場所として使用したものである。
(証拠の標目)略
(法令の適用)
自動車の保管場所の確保等に関する法律五条一項、八条一項一号(但し本条項は昭和四六年法律九八号による改正前のもの)、同法施行令三条一項、昭和四〇年兵庫県公安委員会告示第一二三号、刑法一八条、刑事訴訟法一八一条一項本文
よつて主文のとおり決定する。
(戸田勝 高橋太郎 家村繁治)